昔々、フェデリコ・テシオよりさらに昔、具体的に言うと１９世紀の末、

　　イタリアにジニストレリという馬産家がいました。

　　　 　　　　　　　／￣￣＼
　　　　　　　　　／　　 _ノ　　＼　　　　　　イタリアを競馬三流国なんていう
　　　　　　　　　|　　　 （ ●）（●
.　　　　　　　　　|　　　 　 （__人__）　　　　イギリス人どもに思い知らせてやりたいだろ。
　　　　　 　 　　 |,　 　　 　｀ ⌒´ﾉ
　　　　　　 　　 │ 　　　　 　　 ｝
　　　　　 　　　　 ヽ､　　　 　　ｿ
　　　　　　　 　 ｲ斗┴r┐｀ .;
　　　　／￣`ーゞ､　 /　|__ 〈ー─r､
　　　/　　　　　＼ ∨＼ 　|,ベ._ /　|
　　 ｛　　　 . : : : . ヽ＞ｰ＼[￣{ 〉＼|､_
　　　| 　 　 　　 ｀丶}＼　 __＼_]~∨'＼｀ヽ
　　　:|　　　._　　　　＼_}/r‐-}＼　ﾞ,`''く l　ﾞ,
　　　 ﾄ､: :./ ／￣｀` ぐ└f'二）::{　 ',　 | !,ゞ┐
　　　 `､∨ ´　,.､-''"~￣}_｛‐''く:::{_　 ', _|_|_,rｰ'､_
　　　　 }｛　／　_､-'''"~￣{_＼;;;;;ｊ;＞＜;:::::＼:::ﾍ}＼
　　 　 　}∨: ／　　_､-''ﾞ~￣￣　　　　　＼::::},之_　ヽ
　　 　 　 〉∨ 　 ／　　 　 　　　　　　,.､イ;;ノ_ 　 ｀ヽ}
　　　　　{:　＼,/＼　　-‐　'"　　　／｀￣　　　 　　:.:｝


　　彼は１８８０年、繁殖牝馬を連れて渡英、セントサイモンを種付けして、シニョリーナという

　　牝馬を生産した。

　 　 　　　　　　　　　,. -ｭ,ﾆニ弌垳ト､
　　 　 　 　 　 　 ／r'^　_rﾍ-ﾍ/＾ヽr宀､
　　　　 　 　 　 /!７ト､7′ 〃　　　 ｌ ヽ ヽ
　　　、　　　　/ l//L｣| ∧ｌ |　! |l　 ｜　!　ヽ　　　…
　 　 |:l　　　 / 〃 ||丁l トH､lV| |l　 /l　 } l　|
　 　 ヾヽ　 / 〃　|l　| ｌ抔卞｀ヽ{　/-ト/ //ﾘ
　＼　 ヽ:∨　|」 /ｌ|　ｌﾄヽ￣　　 ﾚ'戎ｼ' ／ ′
⌒ヽ!ヽ._j＼＼ / 八　|ヽ　　　__ ' ∠r1=彳
::..::..::..::..::..｀::..::ヽ/　ﾊ ヽ‐ >､　 ,. イ|　}::..｀ヽ、
::..::..::..::. ／⌒ヽ､ヽjノヽ.∨r 芥､/:./ /::..::..::.､＼
::..::..::.::./:.:.:.:.:.:.:.:.:ヾ⌒Tlヽ｝l,ハ/-/ 〈::..::..::.｀ヾ＼ヽ
::..::..／:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:∨_　||　ヽ:ﾚ':.:ヽ::..::..::.くヽ.j
::.r'´.:.:.:..::.:.:..:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.∨_ ||ｰrﾍ.:.:、:.:.＼ヽヽ:〉
仆､ :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. ∨_l〉 ri心:.:',:.:.:.:.:ヽ｝
′　＼_.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: ∨_　ゞ=仆ヽ.:.:_ノ
　,　　　〉个､:.:.:.:./.:.:.:.:.:.:.:.:.∨_　ｌ　 }〉:.}'´
　|　　く_/^ﾄ､>:.∧:.:.:.:.:.:.:.:.:. ∨_ﾘ　〈|:.ハ
　|　　//:.:.:||:.:./　ヽ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.∨┐r':.:{ ､ヽ
　!|　//:.:.:.:||:./　　 ｝:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:∨.:.:.:.| l　|

　　　　　　　　シニョリーナ

　　さてこのシニョリーナ、父がセントサイモンというだけあってなかなかの能力を秘めており、

　　デビューから９連勝、英オークスに２着に入るなど、１１勝をあげて引退した。

　　　　 ／￣￣＼
　　　／　　 _ノ　　＼　　　　　　　こいつの仔には期待するだろ。
　　　|　　　 （ ●）（●
　　　|　　　 　 （__人__）　　　　　　遺伝的に考えて。
.　　　|　　　　　　　　ﾉ
　　　 |　 　 　 ∩ ノ ⊃
　　／ 　 　 .／　＿ノ
　 (.　 ＼ ／　.／_ノ │
　　＼　 “　／_＿_|　 |
.　　　 ＼／ ＿＿＿ /

　　しかしその期待とは裏腹に、シニョリーナの母としての成績は振るわなかった。

　　不受胎、流産を繰り返し、生まれた仔もイマイチの成績で、はや１７歳を迎えた。

　　それでもジニストレリは諦めきれずに、１９０４年の春、英三冠馬アイシングラスと

　　種付けを行うべく、ニューマーケットの通りを歩いていった。

　　 　 　 　 , -―- ､
　　　　　　/　　　　　＼　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ┌::::ヽ ―――- 、
　　　　　 /　　＼_　　　|　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 i､:メノミミミミミ ミ ｀ヽ
　　　 　 (●) （●）　　 |　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／｀ヽ￣　 　　　 　 　ミミ｀ヽ
　　　 　　(_人__)　　　 /　　　　　　　　　　　　　　　　／イﾐ 　　　　　　i　＼　　ミﾍ ﾊ　　　　　　　ﾍ
　　　　　 l｀⌒´　　　 /　　　　　　　　　　　　　 　　　i|´/ミ ﾍ　 　 　　 i＼　ﾍ 　 ミi　ﾊ　　　 ,,,ノ´;:ﾉ
　　　　　　|　　　　　　ヽ　　　　　　　　　　　　　　　　　 i　　_ﾊ＿ 　 　ﾅ￣＼ﾍ　≪〆≫　 /´;:;:∠,,
　 　　　　__!､＿___／　　＼　　　　　　　　　　　　　 　 <i　　 i ＼ﾄ 　i/≦=キi　 ﾉ∬＼}　 ﾉ;:;:;:;:＿;:;⊃
　　　　／､ ヽ　　　　　r ､　ヽ　　　　　　　　　　　　　　 i∨　T〒示ヾ　ﾍっ;;;;ﾊ /　i　　 ＼;:;:＿＞
　　 　ﾊ ヽ Y｀l　　　　 |　 >　 Y　　　　　　　　　　 　 　 i　i＼ﾍっ;;ﾉ　 　　ゞ'''´ﾚ　 ﾉ　　 　 ヽ、
　　　{　ヽ_ゾﾉ　　　　　|　ﾚi i i}　　　　　　　　　　　　　i　 i　Y i´"　　。　 xイ i　/__　　　＼　｀ヽ、
　　　｀¨´　　ヽ　　　　ハ　 `'''　　　　　　　　　 　　　　　　　ﾉノ｀i￣/下中ｋ:::::ﾚ:::::::|__＼―弋、　ﾊ
　　　　　　　 　>　　 /　ﾍ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 /　く::::乂ｋオ::::＼ﾏﾊr'r'r',￣ヽ ＼ﾘ
　　　　　　　　/　　/ヽ　 ﾍ　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　y　　,＞:::::ゝ介ゝヽ⊥/r'r'r'::::::::｀,,７.ｊ
　　　 　　　 _,/　　/　ご_ノ　　ﾓｷｭﾓｷｭ　　　　 　　　　　　 ／　＜__vv／:::::/ ＼::::::::::｀ヽ｀￣ヽソ)
　　　　　　（　ヽ　/　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　ﾍ　　λE／ナ:::/＞＜＼::::X::::＼∫S
　　　　　　 ＼__ノ　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　＼( 　ﾍ:::ﾉ::::》　＞＜、 ＼::＼:/そ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ヽ／´´＿入__￣｀｀ゝｙ´´
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ｀｀ヘヘ-ヒニΞこ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ヽﾍﾍ,　　　　　　ﾄﾃﾄﾃ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｀ﾟし!

　　当時この通りの両側には、当て馬にしかならないような名前だけ種牡馬がホストよろしく

　　列をなして牝馬を見つめていたのだが、その中に、シャルールーという名の種牡馬がいた。

　　　 　　　　　＿＿＿_
　　　　　　　／⌒　　⌒＼
　 　　　　／（ ●） 　（●）＼　　　　うほっ　　いい牝馬
　　　　／ ::::⌒（__人__）⌒:::: ＼
　　　　|　　　　　|r┬-|　　　　　|
　　　　＼ 　　 　 `ー'´ 　 　 ／
　　　　　 >　　　　　　　　　<
　　　　　（　|　　　　　　　 / ）
　　　　　　`|　　　　　　　/'
　 　 　 　 　|　　　ｒ　　/
　　　　　　　ヽ　　ヽ／
　　　　　　　　>__ノ;:::......

　　　　　　　シャルールー

　　いつもならそんな十把ひとからげの種牡馬には目もくれないシニョリーナなのだが…。

　　その瞬間、二頭の間に電撃走る！

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 , - ' ´孑ヌ -｀ : ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／j⌒__{ 辷杉'r'￣ヽ-ヽ
　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 ,:'イ ,::　　r--t____, ､　 t::.. ﾍ　　　　　　　　　　　　　　　ｨ
　　　　　　　　　　　　　　　　　/i　,　_r'￣　 　 　 　 ゝ'´Y　`Y　　　　　　　　　　　　／/
　　　　　　　　　　　　　　　_,.--}〃/　 '　 　 /!'　　 }| 　 !廴ヾ｝　　　　　　　　/｀ヽ／　/　　　　
　　　　 　 　 　 　 　 　 Y::>'´ィ:::}|　|　{　i　/ }|.| ., /}| /ｲ }　　}:ヽ　　　　　　 /　　　　 /　　　　　　
　　　　　　　　 　 　 _　 zV/:/:::/.{　i　===x.　j |/ｲ.x===/　　ﾘ::::ﾊ　　　 　 /　／｀ヽ/　,、　　　　 _..,　 　　　　　
　　　　　　　　 r≦´＜.／`/:::/ 八　Vi {ﾟ::ﾘヽ　　'´{ﾟ:::ﾘ〃 .／::_:::/　 　 　 /／　　　 ／　ヽ_, - '’／　 　　　　　
　　　　　　 　 彳 　 ／ 　 /´ ! 　| ＼ﾍ ｀¨　　 , 　 ｀¨厶イ/{:{ヾ.', 　　　　　　　　 ／　　　　　 ／　　　　　　　
　　 　 　 　 　 　 , '　　 ≠/　{　 {',　　ヽ 　 　 ,　、 　 / { i:| |:| 　 ,　　　　　 　 ∠-‐￢､　　／　 　　　　
　　　　 　 　 　 /　　　／'　 ハ　ヾ､　　{:＞　.　　. ＜:{∧{ i | |　 　　　　　　　 　 　 　 .ヽ'∧ 　 　
　　　　　　　　/　　／／　/　 ∧　V＼ V:ﾉヽ 孑 'ﾊ_,､!:::ﾍ-:| | ',､　}',　　　　
　 　 　 　 　 /　／／　　/　 〈　 ヽ ∨ ＼　 ／ j}､ヽi}⌒ｲ　:り!∧V} ',
　　　 　 　 ./／／ ,:'　 ./　　 {_, : ´ ＼ 　Y{　ヾ:/>＜ﾆﾆﾆ≦　}　',}.ﾄ, ',
　　　　 　 /,'／ ィ'　　./　　 ／　　　　　　r ∨{r===t_j⌒ー'´ヽ＞ﾘ Vﾊ
　　　　　 .{,'＜　/　/./　　 〈　　 , -- ､_:. ::{　７､　　ヽ　 〈薔〉　　 }｛ﾍ! }
　 　 　 　 | 　 ./　/./　　　　ヽ　　　r==x　i　　Y__,.､　　　V 7 /_ノﾘ　}7
　　　　 　 　 ./　/ ,′　, ｲ 　 ／ﾌY　　　 T　　　　　ー─-vィ　／ ／∧
　　　　　　　7　,'　{ 　 ,:'./　, '〈:/ }::',　　　 |ﾍ　-:::::::::::::' r≦::::ヽ: } 　 i　.∧
　　　　　　　|　'　｜　' /　/　ﾉ／}/　　 　 ! j:ヽ　 　 　 ヾ≠i∨',::i 　 |　　 }
　　　　　　　|,′　.!/　i　/ r彳　//!　　 　|//Y　 　 　 　 r/　};i ',:ヾ:/! 　 .'
　　　　　　　|　 　 |　 j /　　　 ヾ'　! 　 　 |　{_j　　　　　　　　　　ヽ//　 /

￣￣￣￣￣＼
　　 　 　 　 　　 ＼
-‐7"　ヾー---┐ ＼
￣ 　　./ﾞﾆ,ﾆF､'' 　 　＼
　: 　 ,.,. |ヽ 」９L.` 　　　＼
　　　　ｌ'　 """　　 　　 　 l
　　 ｈ､,.ﾍ. 　 　 　;:::　　　 |
（　　　 j　　　 ）　　　 　　 l
:.｀ｰ-‐'´｀ｰ-‐'′　　　 ／
　　≡≡ 　 　　　　 ／
　　　　　　　　　イ＼
　`ｰ- -‐'"´　　　 　　＼
　: .　 　 　 　 　 　 　 　　＼

　　牧夫がいくら手綱を引こうと、シニョリーナは動こうとしない。

　　元よりサラブレッドが本気になれば、人間の力で動くことなどないのだが…。

　　　　　　　　　　　 　　 ／￣￣＼
　　　　　　　　　　　 　／　ノ　　＼ ＼
　　　　　　　　　　　 　|　 （●）（●）　|
.　　　　　　　　　　　　 |　u.（__人__）　.|　　ちょっと待て
　　　　　 　 r､ 　　 　　|　　 ｀ ⌒´ 　.|
　　　　　 ,.く＼＼r､　　 ヽ　　　　　　ﾉ
　　　　　 ＼＼＼ヽ}　　　ヽ　　　 　/　　　え？　何？
　　　　　　 rヽ ` 　 ヽ　　/　　　ｧ'´ヽ
　 　 　 　 └'｀{　 . 　 ＼.|　　　/　 　i　　　どうして見つめ合ってるの？
　 　 　 　 　 　 ヽ､._　　　ヽ､_,r'　　　.|
　　　　　　　　　　　　｀ヽ､　　　／' 　|
　　　　　　　　　　　　　　 ｀'ｰ'´

　　戸惑ったジニストレリだが、理解するのは早かった。

　　ようするに二頭は、互いに一目ぼれしてしまったのだった。

　　　　　　　　　 , --────-- ､
　　　　　　　　／　　　　　　　　　　　＼
　　　　　　 ／　　　　　　　　　　　　　　＼
　　　　　／　　　　　　　　　　　　　　　 　 ＼　
　　　 .／　　　　　　　　 ─── 　　　 ──＼
　　　/　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 ＼
　　｜　　　　　　　　　／／:::::::::丶＼　　:／／::::丶丶
　　.｜　　　　　　　　｜ {:::::::::::::::::|　 |　 ｜ {:::::::::::::|　|　　　　　……
　　　|　　　　　　　　　 ＼ヽ:::::::／ ／　　 ＼ヽ:::::::ﾉ／
　　　.|　　　　　　　　　　　　　,／　　　　|　 　 　 ＼
　　　 |　　　　　　　　　　　　｜　　　　 ｜　　　　 ｜
　　　 |　　　　　　　　　　　　｜　　　　 ｜　　　　　|
　　　 .|　　　　　　　　　　　　 ＼＿＿／＼＿＿／
　　　　|.　　　　　　　　　　　　　ヽ　　, ─ 、　ノ　'
　　　　.|　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 　 /
　　　　 |　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 ）
　 　 　 丶　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 l
　　　　　 ＼　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 )
　　　　　　 .＼　　　　　　　　　　　　　　　　　　/
　　　　　　　　ヽ　　　　　　　　　　　　　　　 ／
　　　　　　　　/　　　　　　　　　　　　　　　 く
　　　　　　　　|　　　　　　　　　　　　　　　　 ヽ

　　　　　　　　　　　＿＿＿
　　　　　　　,. -'"´　　　　　｀¨ー 、
　　　　　／　　　　　　　　　　ヾ　　ヽ、
　　　　/　　　　　　　　　　　　　}; 　ヽゝ.　　　　　　こいつは素敵だ。
　　　/　　　　　　r´　　 __, .．イ ﾄ┬-、i
　　 ,'　　　　　　 L._∠,´.!___,.ノ　ヾ,￣ ヽ,　　　　　この二頭は愛し合ってるんだな。
　　 i　　　　　　　　　　　　　　　　　}　 　 ｝
　　 |　　　　　　　　　　ヽ ,＿＿_,,ノ｀ー-'ヽ,　　　よし、じゃあ結婚させよう！
　　 i　　　　　　　　　　　　　　 ￣ "'''"´　　}
　　 ：　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　./
　　　i　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　,!
　　　i　　　　　　　　　　　　　　　　　　　！
　　　 ',　　　　　　　　　　　　　　　　　　　{
　　　　i　　　　　　　　　　　　　　　　　　　!
　　　　.}　　　　!　　　　　　　　　　　　　　 }
　　　　i　　　　 ヽ、　　　　　　　　　　i　　,'
　　　　l　　　　　　ヽ、　　　　　　　　 |.　/
　　　 /　　　　　　　　ヽ..,,_＿＿＿,,..ﾉノ
　　ノ　　　　　　　　　　　　　　　　　　｛

　　この男の発想もフリーダムであった。

　　元より、生物学者であり心理学者であった男は、非常に粋な計らいをしたのだった。

　　こうして二頭は結ばれ　――

　　　　　　　　　　　　_　 -　――　、
　　　　　　　　　　 イ.:::::::　　-――-＼
　　　　　　　　／ /.::::／　　　　　　ヽ　 ＼
　　　　　　　/ __〈::::ノ　 { 　 { ヽ.　　 } |　:lハ
　　　　　　 /<_ 小、>　| ＼ｰヽ ＼ ﾉｌﾉィﾉ　|
　　　　 　 / <／|_｣　　 | ｆ＝ミヽ　　 ィ７|　/
　　 　 　 / 　 　 　| ヽ　 、　 ||　　 　 ||　ﾚ'ィカ 　 ＿＿＿
　　　 　 /　 　 　 人　＼_＞　 r‐　￢ィ''〔　ﾉノ ／ ー 　ー＼　　　　　　 ηノﾉ
　　 　 /　　 ≧==≧＼　 ＼　| 　／{　7　く__つ　（ ●）　（ ●）　　 　 　 ﾉ, ∃
.　　　/　 ∠三三三三＞ー一'´:.:.:.:..＼＞┤　　　　　（__人__） ヽ　　 .／　./´
　　./ 　 /　≧三三了.:.:.:.:.:.:.:.:.:._,,､＜＼|　||　　　　　　｀i 　i´　　| .／　 ／
　 / 　 /　/三三三∧:.:.:.:.:.:.:>ﾍ {薔}:ｌ:.:.:.〉ﾉ.＼ ＿　　　 `⌒　　／ 　.／
　;　　/　厶ィ⌒ヾ三ﾆ＞=イ:.:.:.:.ヽ　|:|:.:.{　　 ／　　 　 　 ⌒　　　 ／
　|　/　　/　　　　}彡ﾍシ}:.:.:.:.:.:.:.:.∨.:ﾄ､:.:.＼'　　　　　　　 　 　 ／
　| l |　 / ＿,,.∠斗―／-―:.:.:.:.:.:.:.:〈　＼:.:.:}＼|　　　　　　　　|
　ヽ |／..:.:.:.:.:.:.:_　-‐'´.:.:／..:.:.:.:.:.:.:.∧ﾍ　ト-'_rく.＼　　　　　　 |
　／..:.:.:.:.:.:.:.／..:.:.:.:.:.:.:.〈:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/><ｌ:.l　ヽく_r勹　ヽ 　 　 　 ﾉ

　　翌年、シニョリーナは牝馬を産んだ。これがシニョリネッタである。

　　　　　　　　 ､_　　＿
　　　　　　 ｨ-‐ ` Y　＜＿＿
　　　＿≦―'´＿＿ _二z<＿
　　　 ＞ヾ ￣, -‐　´￣｀┴＜
　 ＜戈､　Y　 /　　　　　　　　＼
　　　 >{　/ 　 l,　､　,　　,l_ 　 ､　ヽ　　　…
　　　|　ゝ{　　 l｀寸寸T ハT7 } ,､ l
　　　∨ヾﾊ ∨ゝ　（●）　（●）|ハ|
　　　　　　ヾi∨|　　　　 ,　　 |´
　　　　　　　ヽT､,_　 ―　 _ ノ
　　　　　 　 　 |　lヽ::ニヨ7l
　　　 　 　 　 └l´:::／ヽ |`

　　　　　　　シニョリネッタ

　　このジニストレリの暴挙に対して、当時のイギリス紳士はせせら笑った。

　　特にこの年、シニョリネッタの半兄にあたるシニョリーノが英ダービーで

　　３着と好走していたためである。

　　このためシニョリネッタは「シャルールーの私生児」とまで呼ばれたのである。

　　　　　　　 ､-ー'｀Ｙ ＜,__＿
　　　　_＿≦ー`__＿　_二ｚ<＿
　　　　 ＞ ７ ￣､-‐ ´￣｀'┴＜　　　　　　　まあ主役であるからには、ここから連勝して
　　　＜之′Ｙ´／ 　　　　　　　＼
　　　　 >{　 ,' 　| ､　,　,.　 ,.l　　, 　ﾞｉ　　　　　クラシックロードへ　――
　　　　 |　!､{　　| 寸寸T　ハT７} ｨ,ｌ
　　　　 ′Ｊｉ, ﾞｉ ﾞｉ （ ●）　 （●）|ハ|
　　　　　　i⌒ヽ'(1. ''' 　＿'　 ''' ﾉ川／⌒)
　　.　　 　 ヽ 　ヽx＞､（_.ノ__,イ ｌ |::::ヽ／
　　　　　　 ∧　人lﾊ:::::l,三|:::/ｌ|　,:::::ﾊ

　　シニョリネッタは初勝利を挙げるまでに、６戦を必要とした。

　　　　　 ､-ー'｀Ｙ ＜,__＿
　　_＿≦ー`__＿　_二ｚ<＿
　　 ＞ ７ ￣､-人 ￣｀'┴＜　　　　　　　　よ、よし、ここから連勝を　――
　＜之′Ｙ´／{:;o）　　 　 　 ＼
　　 >{　 ,' 　| ､ ゛´ ,.　 ,.l　　, 　ﾞｉ
　　 |　!､{　　| 寸寸T　ハT７} ｨ,ｌ
　　 ′Ｊｉ, ﾞｉ ﾞｉ （ ≡）　 （≡）|ハ|
　　　　i⌒ヽ'(1. ''' 　＿'_　''' ﾉ川／⌒)
.　　 　 ヽ 　ヽx＞､.｀⌒´_,イ ｌ |::::ヽ／
　　　　 ∧　人lﾊ:::::l,三|:::/ｌ|　,:::::ﾊ

　　そして好走は続けるものの、一勝馬のまま、クラシックシーズンを迎えたのである。

　　　　　　　,_　 　＿
　　　　　､-ー'｀Ｙ ＜,__＿
　　_＿≦ー`__＿　_二ｚ<＿
　　＞ ７ ￣､-‐ ´￣｀'┴＜
　＜之′Ｙ´／ 　　　　　　　＼　　　　　…そ、そうか私のポジションはいわゆる
　　 >{　 ,' 　|､　,　,.　 ,.l　　, 　 ｉ
　　|　!､{　　| 寸寸T　ハT７} ｨ,ｌ　　　　　パシフィカス的な…名馬の母か。
　　′Ｊﾞｉ, ﾞｉ ﾞｉ（ ○）　 （○）|ハ|
　　　　　ﾞｉ|ﾞｉ'(1　　　Д　 ノ川　　　　　　うん、しゃーないな、繁殖として頑張ろう。
　　　　　　│「ィ::ニE7 l
　　　　　　└l´::::／ヽﾄ
　　　　　　　 |::::|´ ￣｀i

　　　／￣￣＼
　 ／ _ノ　 ヽ､_ ＼
.　|　（ ●）（● ）　|
.　|　　（__人__） 　│　　　　　何を言ってるんだ、お前は。
　 | 　　｀⌒ ´　 　|
.　 | 　 　 　 　 　 |　　　　　　クラシックに出走する準備は出来たのか？
.　 ヽ　　 　　　　/
　　 ヽ　 　　　 /
　　　>　 　　 <
　　　|　　 　　 |
　 　 |　　　 　 |

　　　　　　　　 ､_　　＿
　　　　　　 ｨ-‐ ` Y　＜＿＿　　　　　え？　クラシックって私が？
　　　＿≦―'´＿＿ _二z<＿
　　　 ＞ヾ ￣, -‐　´￣｀┴＜　　　　１０００ギニーは負けてるから…オークスに出るの？
　 ＜戈､　Y　 /　　　　　　　　＼
　　　 >{　/ 　 l,　､　,　　,l_ 　 ､　ヽ
　　　|　ゝ{　　 l｀寸寸T ハT7 } ,､ l
　　　∨ヾﾊ ∨ゝ　（●）　（●）|ハ|
　　　　　　ヾi∨|　u ,,,　　'　,, |´
　　　　　　　ヽT､,_　 ⊂⊃_ ノ
　　　　　 　 　 |　lヽ::ニヨ7l
　　　 　 　 　 └l´:::／ヽ |`

　　　　　　　　 ／￣￣＼
　　　　　　　／　　 _ノ　　＼
　　　　　　　|　　 　（ ⌒）（⌒）
　 　 　 　 　 |　　 　　（__人__）　　　　　ハハッ、何を言ってるんだお前は。
　　　　　　　 |　　 　　 ｀ ⌒´ﾉ
　 　 　 　 　 ,|　　 　　　　　 }
　　　　 　 ／ ヽ　　　　　　 }
　　　　　く 　く ヽ　　　　 ノ
　　　　 　 ＼　`' 　　　 く
　　　　　　　 ヽ、　 　 　 |
　 　 　 　 　 　 | 　 　 　 |

　　　　　　_,,.. -　､
　　 　 ,.-'　　　 　 ｀' ､.
　　　,r'　　　 　　 ,rfn､ ＼　　　　　　　　　ダービーに出るに決まってるじゃないか！
　 　 ,'　 ,rffn.　　 '"　 　　 ヽ
　　 .i　 '"　　　　　,riiﾆヽ. 　 ',.
　　 {　　,riiﾆヽ　　　 　 _.　 　 ',
　 　!　　　,..　 _,,..　-‐'　_,..r'　 i
　 　',　　 '､., __ ,.. -‐''"ﾞ　 }　　|
　 　 `､　　ヽ　　　　　　　 ! 　 }
　 　　 '､　　ヽ　　　　 　./　　 !
　　　　　＼　　｀ヽ==＝'ﾞ　 　 ,'
　　　　　　 ' ､　　　　　　　　/ .
　　　　　　　　`''‐　　　.　r'　＼
　　　　　　　　　/　　　 く　　　 ＼　　　　　　　 ＼
　　　　　　　　　|　　　　 ＼ 　 　　＼ 　 　　　　　　＼
　　　　　　　 　 |　　　　|ヽ、二⌒)　 ＼　 　 　　　　　 ＼

　　　　　　　 ＿　 　_,
　　　　　＿__,＞ Ｙ´'ー-､
　　　　＿>ｚ二_　＿__`ー≧＿_　　　…え？
　　　　＞┴'´￣｀ ‐-､￣ ７ ＜
　　 ／　　　　　　　 ヽ ｀Ｙ′之＞
.　 /　 ,　　l、　、 ,　､ |　 ヽ　}<
　 ｌ ,ｨ {７Tハ　T寸寸 |　　}ノ　|
　 |ハ |（○）::::（○）　/ / ,/ﾚ′
　　　 `| 　　ヽ 　　U「)'/|/
　　　　ヽ､_ 　コ 　_,.ィT/

　　今さら言うまでもなく、シニョリネッタは牝馬である。

　　それまでの歴史の中で、牝馬の英ダービー馬というのは３頭しかいない。

　　ダービーの二日後のオークスにしぼるならともかく、ダービーに一勝の牝馬が出るというのは

　　かなり非常識的に考えてもありえないことだった。

　　　　　　　　 ＿　 　_,
　　　　　　＿__,＞ Ｙ´'ー-､
　　　　　＿>ｚ二_　＿__`ー≧＿_
　　　　　＞┴'´￣｀ ‐-､￣ ７ ＜
　　　 ／　　　　　　　 ヽ ｀Ｙ′之＞　　　　いやでも、私一勝馬なんですけど～
.　　 /　 ,　　l、　、 ,　､ |　 ヽ　}<
　　 ｌ ,ｨ {７Tハ　T寸寸 |　　}ノ　|
　　 |ハ |（三）　（三）　/ / ,/ﾚ′
　　　　 `| l l　,─､　　「)'/|/
　　　　　ヽ､_ '―┘ _,.ィT/
　　　　　　　l 7Eニ::ィ1│
　　　　　　　'ｲ／ヽ::::｀l┘

　　　　　　 　.　＿＿
　　　　　　　.／::::::.　＼
　　　　　　 /::::::ヽ;;:　　 ＼
　　　　　. （:::::（::::冫 　　　|　　　　　確かにお前は一勝馬だ。
　　　　　. （:人;;;） .　　　　|
　　　　　r‐-;::::::. .　 　　　|　　　　　だが潜在能力は充分にある。
　　　　 （三））:::::..　.　　　|
　　　　　>::::ﾉ:::::::::.　　　 /　　　　　俺の目に狂いはないと信じる。
　　　　/::: / ヽ;::::::::: 　 /
　　 　/::::/ ⌒ヾ:::::::::::.〈
　 　 （;;;;__ゝ:;;:::::＼／:::::）
　　　　　　.　|＼::::::::::::;;:1
　　　　　　.　|:::::＼;;／:::|

　　　　　 ､-ー'｀Ｙ ＜,__＿
　　_＿≦ー`__＿　_二ｚ<＿
　　 ＞ ７ ￣､-‐ ´￣｀'┴＜
　＜之′Ｙ´／ 　　　　　　　＼　　　　　　　オーナー…
　　 >{　 ,' 　| ､　,　,.　 ,.l　　, 　ﾞｉ
　　 |　!､{　　| 寸寸T　ハT７} ｨ,ｌ
　　 ′Ｊｉ, ﾞｉ ﾞｉ （ ≡）　 （≡）|ハ|
　　　　i⌒ヽ'(1. xxx 　 '　xx,ﾉ川／⌒)
.　　 　 ヽ 　ヽx＞､　 °_,イ ｌ |::::ヽ／
　　　　 ∧　人lﾊ:::::l,三|:::/ｌ|　,:::::ﾊ

　　 ／￣￣＼
　 /ﾉ　 ヽ､_　　＼
. （ ●）（ ●）　　 |　　　　俺ももう年だ…。
　|（人__） 　 　 　 |
　 | ⌒ ´　　　 　 |　　　　夢を見るだけじゃ、たまらないさ…。
.　 |　　　 　　　　|
.　 ヽ　　　　　　/　　　　夢をつかみたいんだ。
　　 ヽ　　　　 /
　　　.>　　　 <
　　　|　　　　 |
　 　 |　　　　 |

　　　　　　　　　　　＼｀ヾ:.:.:.:.　.:.:　　.:レ'´／
　　　　　　　　　_,.　-=≒‐:.:.:. .:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:￣ﾞ≧
　　　　　　 ｘ≦_:.:.: ,．　 ´￣｀ .　´￣￣｀丶､:.そ
　　　　 　 ≪_:.:.:／: : :.:　　　　 :.　:.　　 　 　 ＼:.≧ｘ､
.　　　　　,ｘ≦:./:.: : : :.:　.: :　:　 :.　:.:.　 :.　　　　ヽ:て¨｀
.　　　　　￣｀7:.: : :　:.:　.: :　.:　　:　:.:.　 .:　:.: 　　ﾊ:.:.:.＼　　　オーナー！
　　　　　　　,':.: : :　.:.:　:.: :　.:　 .:.:　.:.: .: .:　.:.:. :.:マi´￣´
　　 　 　 　 i:.: : :　 :.:　:.: : : :.:　:.:.:.　.:.: .: .: .:.:.: ＼:＼　　　　　私、走ります！
　　 　 　 　 l :l|.:.: .:.:.:ﾄ､:.ﾄ､:.:.:j:.:.:.:.: /!:.:ﾊ:.: ﾊ.:　:.:.:トﾐ≧
　　 　 　 　 |.:j|:.:.:.:ﾄ､|弌!弌ノ!:.:.:.:/ T7''T'7 |.:　:.: |
　　 　 　 　 Ⅵk:.: :!.:l`笊うﾐ.､l:.／　,ｨだホz !:. .ｲ:.j
　　　　　　 　 ﾘﾊ:.:l:.l! ゞ::::::ﾉ ´ 　 　 ゞ::::::ﾉ j:./ Ⅳ
　　 　 　 　 　 八＼{ wxwx　　 ,:　　 wxwx 'ｲ ﾉ
.　　　　　　 　 　 ヽﾊ 　 　 　 　 　　　　　　/ｨﾍ
　　　　　　　　　　 /:.:.> 　　　⊂⊃　　　,.ｲﾊ kﾍ
.　　　　　　 　 　 厶ｨ'.:/ﾐiｘ.　 　 　 　 ィ:.:.:.Vﾊ!　`
　　　　　　　　　 　 ﾑﾊV:.:ﾏ=≧=≦=7:.:.:.:.:.Vﾊ
　　　　　 　 　 　 　 ﾊV:.:x仆ミ//彡仆x :.:.:/Vﾊ
.　　　　 　 　 　 　 /ｘ＜///＞介＜////＞xVﾊ
　　　　　　 　 ,ｘ＜//////〃./ﾊVﾊ.V///////＞ｘ,
　 　 　 　 　 //////////｛しﾞ//}.しﾞ.}//////////ﾊ

　　と言ってはみたものの、当日のシニョリネッタのオッズは１００対１という最低のもの。

　　しかもこのオッズさえ、実は仮に定められたもので、実際にはさらに悲惨な人気だったという。

　　そして結果は…







　　　　　　　　　　　　　 　 ＼　　　　ヽ　V/　/ /
　　　　　　　　 ＿＿ , ．イ　　　　　　　V }　　イﾆミー- ﾉ
　　　　　　　　 ￣¨ー .,　　　　　 ／ヽ　　　／　ヽ　r-イ
　　　　　　　　　 　 ／　　　　　./:::...:.＞＝<_＿:.:ハ ＼
　　　　　　　 　 .／　　　　　 i / ＜´　　　　　　 ＞::>　＞..._
　　 ､＿＿ , ィ　　　 ／　　 ﾊ !　　,, -　　　　　　　 ハ 从 ＜　　　　　　あ～ん？
　　　　￣￣＝ ≠　 { i　　 /八! ／　　　　　　　　　　 }/　ヾﾐ;､
　　　　　 　 　 /　　　!i!　 //　 ,'　　　　　　　　　　　　　　　 ＼　　　　　ダービー馬の私に何か用かね?
　　　 　 　 　 ,'　　　 ﾊ　 川　/　　,　　　　 /　　　 　 　 　 　 ハ
.　　　　　 　 /　　　　 ∧ |　 ,　　,'　　　　 ,ｨ 　 　　　 ,'　　 i　　　 .
　 　 　 　 ／　_,　　　 　 }!　i　　,'　　　,／ ,'　　 　/ /i 　 ./|　　　ﾊ
　　　　／　イ7　　　　　 |　 |　 ,'　´¨,ﾃﾅ=i‐- 　ｨ／ 十-.|,,_i　　　 .i
　　　　￣　　i　　　i!　 从　 | .i l 卞ヮｪｚ,ﾐ_／./｜　／ヽ川,;　　　 .|
　　　　　　　 |　 / .|　　 ∧ .| .| l　､ﾞ弌歹　ﾞ` 　 l／,ｨ示ｭ,.ﾉ/　　　.|
　　　　　 　 人 八 {､　 ,' ∧ >　l,　｀ ｰ- '´　　　　 ､ﾞ'"´, //　 / ﾉ.,'
　　 　 　 ／　| {_ ノ!　　　|::|{　＼!　　　　　　　　　　 ￣　ｲ.//／./
　　　　　　　　Vーイ{ 　　|::|　ト.､ >　　　　　　　　　'　　 イ／
　　　　 　 　 　 　 /　　　.|::|　|::|::|　　　 　 　 　 　 　 　 ﾉ´
　　　　　　　　　 /　 ／Yﾟ|::|　|::|::|､　　 　 　 ⊂⊃　,
　 　 　 　 　 　 /..／ 　 ﾄ.|::|　川ﾟ|　＞ 、_　　　　／
　　　　 　 　 ー "　　　ﾉ/!_|　 .|: |,,,__ 　　　l￣ ´
　　　　　　　　　 　 　 　 　y'　｀~~"'-ミ二ﾆl
　　　　　　　　　　　　 ＞'"　　　　　　　　　ｔ、
　　　　　　　　　　 ／　　　　　　　　　　　　　＼

　　勝ったのである。２着はあのセントサイモンの産駆パルマーであった。

　　　　　 ､-ー'｀Ｙ ＜,__＿
　　_＿≦ー`__＿　_二ｚ<＿　　　　　　　　いや～、まさか私がダービー馬とはね。
　　 ＞ ７ ￣､-‐ ´￣｀'┴＜
　＜之′Ｙ´／ 　　　　　　　＼　　　　　　オーナーの期待にも応えられたし、
　　 >{　 ,' 　| ､　,　,.　 ,.l　　, 　ﾞｉ
　　 |　!､{　　| 寸寸T　ハT７} ｨ,ｌ　　　　　メデタシメデタシ。
　　 ′Ｊｉ, ﾞｉ ﾞｉ （ ≡）　 （≡）|ハ|
　　　　i⌒ヽ'(1. xxx 　 '　xx,ﾉ川／⌒)
.　　 　 ヽ 　ヽx＞､　 °_,イ ｌ |::::ヽ／
　　　　 ∧　人lﾊ:::::l,三|:::/ｌ|　,:::::ﾊ

　　　／￣￣＼
　 ／ _ノ　 ヽ､_ ＼
.　|　（ ●）（● ）　|
.　|　　（__人__） 　│　　　　　　　　何を言ってるんだお前は？
　 | 　　｀⌒ ´　 　|
.　 | 　 　 　 　 　 |
.　 ヽ　　 　　　　/
　　 ヽ　 　　　 /
　　　>　 　　 <
　　　|　　 　　 |
　 　 |　　　 　 |

　　　　　 ､-ー'｀Ｙ ＜,__＿
　　_＿≦ー`__＿　_二ｚ<＿
　　 ＞ ７ ￣､-‐ ´￣｀'┴＜　　　　　　あ、オーナー。
　＜之′Ｙ´／ 　　　　　　　＼
　　 >{　 ,' 　| ､　,　,.　 ,.l　　, 　ﾞｉ　　　私もう繁殖入りですよね？
　　 |　!､{　　| 寸寸T　ハT７} ｨ,ｌ
　　 ′Ｊｉ, ﾞｉ ﾞｉ （ ●）　 （●）|ハ|　　　　　素敵なお婿さん見つけてほしいかな～なんて。
　　　　i⌒ヽ'(1. ''' 　＿'　 ''' ﾉ川／⌒)
.　　 　 ヽ 　ヽx＞､（_.ノ__,イ ｌ |::::ヽ／
　　　　 ∧　人lﾊ:::::l,三|:::/ｌ|　,:::::ﾊ

　 　／￣￣＼
　／　　 _ノ　　＼
　|　　　 （ ●）（●）
.　|　　　　 （__人__）　　　　　　　　　　明後日のレースが終わったらな。
　 |　　　　　｀ ⌒´ﾉ
.　 |　　　　　　 　 }
.　 ヽ　　　　　 　 }
　　 ヽ　　　　　ノ　　ｍm
　　　/　　　￣￣￣　つﾉ
　　　|　　　　|￣￣￣

　　　　　 ､-ー'｀Ｙ ＜,__＿
　　_＿≦ー`__＿　_二ｚ<＿
　　 ＞ ７ ￣､-人 ￣｀'┴＜　　　　　　　　　え？
　＜之′Ｙ´／{:;o）　　 　 　 ＼
　　 >{　 ,' 　| ､ ゛´ ,.　 ,.l　　, 　ﾞｉ
　　 |　!､{　　| 寸寸T　ハT７} ｨ,ｌ
　　 ′Ｊｉ, ﾞｉ ﾞｉ （ ≡）　 （≡）|ハ|
　　　　i⌒ヽ'(1. ''' 　＿'_　''' ﾉ川／⌒)
.　　 　 ヽ 　ヽx＞､.｀⌒´_,イ ｌ |::::ヽ／
　　　　 ∧　人lﾊ:::::l,三|:::/ｌ|　,:::::ﾊ

　　　　　　　　　　　＿＿＿
　　　　　　　,. -'"´　　　　　｀¨ー 、
　　　　　／　　　　　　　　　　ヾ　　ヽ、
　　　　/　　　　　　　　　　　　　}; 　ヽゝ.
　　　/　　　　　　r´　　 __, .．イ ﾄ┬-、i
　　 ,'　　　　　　 L._∠,´.!___,.ノ　ヾ,￣ ヽ,　　　　　オークスも走るんだよ！
　　 i　　　　　　　　　　　　　　　　　}　 　 ｝
　　 |　　　　　　　　　　ヽ ,＿＿_,,ノ｀ー-'ヽ,　　　　牝馬的に考えて！
　　 i　　　　　　　　　　　　　　 ￣ "'''"´　　}
　　 ：　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　./
　　　i　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　,!
　　　i　　　　　　　　　　　　　　　　　　　！
　　　 ',　　　　　　　　　　　　　　　　　　　{
　　　　i　　　　　　　　　　　　　　　　　　　!
　　　　.}　　　　!　　　　　　　　　　　　　　 }
　　　　i　　　　 ヽ、　　　　　　　　　　i　　,'
　　　　l　　　　　　ヽ、　　　　　　　　 |.　/
　　　 /　　　　　　　　ヽ..,,_＿＿＿,,..ﾉノ
　　ノ　　　　　　　　　　　　　　　　　　｛

　　ダービーを制した二日後に、オークスに出る。

　　オグリキャップも真っ青のローテーションであった。


　　　　　　　　　　　　　　　　　＿ー ､　}V　 _
　　　　　　　　　　　　　 ｀ー--≧ 　 V　ﾚ´{
　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 _フ'　　　　　　　__｀ヽ.,　　　　　　ありえねー！
　　　　　　　　　　 ,....-―≦＝=､､_, -､　　　＼｀ヽ
　　　　　　　　 ／　　　　　　　丶. ｀ヽ.､ }　　　｀フ　　　　　これはあれか！？
　 ヽ|＿　 　 ,.:'　　　　　　　　　　｀Y　｀| |　 　 ｀ヽ
　　 め　　 /　　|!ヽ　　トﾍV＼　　 l　　}人{ヽ.＼ヾ　　　　悲劇の名馬フラグか！？
　　　わ　 f　　 |ｰ!!!＼ レ冫｀八　　lﾑヽﾘ　ﾉ　ヽ._
　　　わ　 ｉ　　 ７　 !!!!　 =＝　 ';　　lﾗ　}|　{´￣
　　　　　　',　　 Κｿ ′__ 　　u　',　 !-.ﾊｲ 人
　　　　　　 Ｖ　|!　ｕ ヽ ｰヘ　 ﾟ　!　 !　ﾊ/.ﾉ'
　　　　　　　∨　ゝ、　 `ー'´ _,　 |　/ﾊ
　　　　　　　　Ⅵ＼｀　ｰ,‐‐:1　／ ⌒＼　
　　　　　　　　　　　＼　Ⅳ　|　/　ノ　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　 ヽｌ ⅥΛ ／　　　　 ｝

　　そしてオークスも制したのである。

　　　　ミ::::::､:::ﾄ､lVヾ.i　　　　　　　　　＿ー ､　}V　 _
　　　　.ﾐ:＼､|ヽ!　　　　　　　　 ｀ー--≧ 　 V　ﾚ´{
〃}ﾊ「ヾ::::::ゞ　　　　 　 　 　 　 　 _フ'　　　　　　　__｀ヽ.,
:::〈{::::|L__ミ　　　　　　　　 ,....-―≦＝=､､_, -､　　　＼｀ヽ　　　　　気が付いたらレースが終わってた！
:::::::〉:::￣:＞　　　　　　 ／　　　　　　　丶. ｀ヽ.､ }　　　｀フ
:::〃::::::::三__　　　 　 ,.:'　　　　　　　　　　｀Y　｀| |　 　 ｀ヽ　　　　　ついでに二冠馬になってた！
:::{[::::::::::::＞　　　　 /　　|!ヽ　　トﾍV＼　　 l　　}人{ヽ.＼ヾ
v/∠::::∠＿ 　　　f　　 |ｰ!!!＼ レ´￣八　　lﾑヽﾘ　ﾉ　ヽ._
　　≦:::::::∠._　 　 ｉ　　 ７　 !!!!　 =＝　 ';　　lﾗ　}|　{´￣
1ｨトヽ::::::::／　　　 ',　　 Κﾉ ′__ 　　u　',　 !-.ﾊｲ 人
く::::::::::::∠　　 　 　 Ｖ　|!　ｕ ヽ ｰヘ　 ﾟ　!　 !　ﾊ/.ﾉ'
/::::::::::::::::::フ　　　　 ∨　ゝ、　 `ー'´ _,　 |　/ﾊ
L_::::-:=-:三,　　　　　 Ⅵ＼｀　ｰ,‐‐:1　／ ⌒＼
√´:::::::::::::/　　　　 　 　 　 ＼　Ⅳ　|　/　ノ　　　ヽ
_ゝVﾚ/∠ -‐　　　　　　 　 　 ヽｌ ⅥΛ ／　　　　 ｝
＞:-‐

　　その後シニョリネッタは勝利を挙げることなく繁殖入り。

　　生涯成績は１３戦３勝。そのうちの２勝がクラシックという、名馬であり迷馬であった。

　　　　　＿_＿__
　　　　　,＞　　 ≧r　￣　　　ヽ
　　　　,＞ ＿_／　　　／　　　　 ＼
　　 ∠_　　　/　/　　/ ./　./ ./ !　 ヽ,　　　　　　終わり。
　 　 　 ノ ≧|　.! 　 / ./__:/|./　| .| 　 |
.　　fヽ.　fヽ. l　|　　|　.l:／｀/ 　 !ﾊ|_| |　　　　　このＶは勝利のＶじゃなくて二冠のＶだ。
　　 {　|　|　} |ヽ! 　 : ---､　 　 ﾉ　|ｲ`!　
　　 ,ゝ ¨′{ ∨|　　|弋り　　　 __｀`| |　　　　　オルフェーヴルおめでとう。
　 r{　ｔ‐y　 }　`| 　 l 　 　 　 '　ﾋり ﾊ|
　 ヾ=z⊂ィ′　|ﾊ　!　　　_ __　　 /ｲ|　　　　　池添騎手、あまり冗談にならないオチをありがとう！
　 　 |　　 !　　　　ﾍ|丶　.__, _,. イ |/
　　 /　　 |_／´￣｀＼　　 Ｌ._
.　　i　　　j　　　 　 　 }',　　 ヽﾏｰ ､
.　　| 　 　 　 　 　 　 ﾉ::ﾍ、　 j::ﾍ.　}

　　　　　　　第一話　　シャルールーの私生児　　了